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名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)617号 判決 1982年5月07日

原告 株式会社 中央相互銀行

右代表者代表取締役 渡辺脩

右訴訟代理人弁護士 小川剛

同 村橋泰志

被告 磯崎正史

右訴訟代理人弁護士 松永辰男

主文

一  被告は原告に対し、別紙目録記載の土地につき、名古屋法務局甚目寺出張所昭和五五年三月二五日受付第三、二五一号賃借権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  原告は主文同旨の判決を求め、請求原因事実として次のとおり述べた。

一  別紙目録記載の土地(以下本件土地という)は、もと訴外小山卓蔵の所有するところであったが、訴外中日本総合信用株式会社において、昭和五三年一二月二六日抵当権の設定を受けて同月二七日その旨登記を経由し、昭和五五年九月二二日右会社の申立により増価競売手続開始決定がなされ、同年一二月二五日原告がこれを競落して所有権を取得し、昭和五六年一月二三日その旨所有権移転登記手続を経由した。

二  而して、本件土地には、名古屋法務局甚目寺出張所昭和五五年三月二五日受付第三、二五一号をもって、訴外小木曽耕司を権利者とする賃借権(同月二二日設定、賃料一か月三・三平方メートル当り金一〇円、期間昭和五五年三月二二日から昭和六〇年三月二二日まで)設定仮登記がなされており、被告が昭和五六年六月六日その譲受をけたとして同月八日賃借権移転仮登記が経由されている。

三  しかしながら、訴外対小木曽も被告も本件土地を占有したことはなく、かかる占有を伴なわない賃借権仮登記は民法三九五条、六〇二条による保護を受けるに値せず、原告には対抗しえないものである(NBL二四八号三四ページ、判例評論二二二号一四八ページ等参照)。

四  よって原告は被告に対し、右賃借権設定仮登記の抹消登記手続を求める。

第二  被告は「原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、「請求原因一及び二の事実並びに同三のうち訴外小木曽も被告も本件土地を占有したことがないことは認め、その余は争う。原告掲記の論文は根抵当権と併用の仮登記賃借権についてのものであって、本件の如き単独での賃借権設定の場合には、原告主張のような解釈はできないところである。」と述べた。

理由

一  請求原因一及び二並びに訴外小木曽も被告も本件土地を占有したことのないことはいずれも当事者間に争いがない。

二  ところで、民法三九五条所定の短期賃借権の保護制度は、抵当権が抵当不動産の担保価値のみを把握し、その用益に干渉しないものである一方で、抵当権設定後、用益権の負担を受けるようになると抵当不動産の売却価格が低下して担保価値自体が減殺されてしまうことから、抵当権の担保価値把握機能の保障と、抵当不動産の利用が実際上円滑に行なわれることの保障との合理的調和を図るべく、抵当権者(従って競落人についても)をして同法六〇二条掲記の限度での用益負担を受忍せしめることにより、合理的必要のある抵当不動産の利用、用益を保障しようとするものである。

従って、もともと真に用益する意図がなく、合理的必要性の認められない賃借権は同法三九五条で保護すべき短期賃借権には該当し得ず、先順位の抵当権者(従って競落人にも)には対抗し得ないものと言わなくてはならない。

これを本件についてみるに、被告の有する仮登記賃借権は本件の競売申立抵当権者の後順位に当る短期賃借権であるところ、昭和五五年三月二二日に設定されて以来、右設定を受けた訴外小木曽においても、また右仮登記賃借権の譲渡を受けた被告においても、本件土地を占有して用益したことは全くないと言うのであり、しかも他に右賃借権を存続させるべき合理的必要性を認め得るような特段の事情も窺われないのであるから、右賃借権は同法三九五条で保護すべき短期賃借権には該当しないものと言わざるを得ない。(当庁における執行実務の扱いも、いわゆる単発の仮登記賃借権で抵当不動産に対する使用占有等用益の実体のないものの仮登記は、競落後職権にて抹消嘱託をなしていることは当裁判所に顕著である。)

そうすると、本件の仮登記賃借権は競落人である原告に対抗し得ないから、本件土地所有権に基づき、原告は右仮登記の抹消登記手続を被告に対し求めることができる。

三  してみれば原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 金馬健二)

<以下省略>

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